人類は果たして幸福になったのか?|サピエンス全史 -文明の構造と人類の幸福-

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■書籍紹介

■書籍情報

タイトル:サピエンス全史 -文明の構造と人類の幸福-
著者名:ユヴァル・ノア・ハラリ
 訳:柴田 裕之
出版社:河出書房新社
初版発行日:2016/9/9

■「サピエンス全史」はこんな人にお勧め!

・歴史・人類史が好きな人
・「ヒト」がどうようにして文明を作り上げたのかを知りたい人
・新しい考え方を知りたい人

■「サピエンス全史」の概要

人類=ホモ・サピエンスは、いったいどうやって食物連鎖の頂点に立ち、地球を支配するに至ったのかを3つの革命を軸に語られています。

その3つの革命が「認知革命」「農業革命」「科学革命」であると著者は述べています。

 ■「サピエンス全史要約

1.認知革命 

約10万年前、ホモ・サピエンス以外にもネアンデルタール人などの人類種(ホモ属)が、生存していました。

しかし、それも約1万3千年前に絶滅してしまいます。

以前は、他のホモ属が絶滅したのは、ホモ・サピエンスが頭がよく、力が強いからだと言われていました。

しかし、考古学的観点から現在では、ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより脳が大きく筋肉も非常に発達していたと多くの研究が示唆しています。

では、なぜ我々=ホモ・サピエンスが生き残ったのか?

正確には、なぜホモ・サピエンスは、他のホモ属を絶滅させることが出来たのか?

著者は、これを約7万年前に起きた認知革命にあると述べています。

著者は、この認知革命をホモ・サピエンスが虚構(フィクション)を語れる能力を獲得したことだと述べています。

虚構(フィクション)は、本書で重要なキーワードになりますので、少し補足します。

動物たちはそれぞれに私たちと同じような言語を持っており、「敵が来たぞ!」や「あそこに食べ物がある!」などコミュニケーションがとれることが分かっています。

しかし、ホモ・サピエンスは、それ以外にも存在しないものに関しても語れる能力と、それを他者と共有することが出来るという能力を有していました。

これが、虚構(フィクション)を語るということになります。

分かりやすい例を挙げると、‘‘ユニコーン‘‘を皆さんご存知でしょうか?

恐らく多くの人が、白馬に角が生えたものを想像していただけたと思いますが、ユニコーンはこの世に存在しない生き物です。

このように我々は想像だけで、他者と同じものを共有することが出来ます。

これが、著者の言う虚構(フィクション)を語る能力になります。

本題に戻ります。

この認知革命によって、ホモ・サピエンスは、同じ‘‘何か‘‘を共有する集団や社会を形成することができ、数の暴力で圧倒し、他の種族を滅ぼしていきます。

著者は、この認知革命がなぜ起こったのかは不明であるとしながら、体が人間、頭はライオンという恐らく想像上の生き物の像が洞窟から発見されていることを基に、この時期からホモ・サピエンスに認知革命が起こったのではないかと説明している。

 2.農業革命

約1万年前、ホモ・サピエンスは、狩猟採集民の生活から、徐々に定住生活へとシフトしていきます。

それまでは、常に食料を求めて移動をしなければならなかったが、小麦などの作物を栽培することによって、安定的に食料の確保が進みます。

そして、女性は、定住生活をすることによって、毎年、赤ちゃんを産み育てることが可能になりました。

その結果、人口爆発を引き起こします。

各地に存在していた小集団が、徐々に統合されていき、数千人の大規模集団に変化していきます。

この動きを加速させたのが、貨幣・宗教・国家です。

①貨幣

それまで物々交換をしていたサピエンス達も数千人規模の集団では、不都合なことが起こるようになりました。

例えば、魚とりんごを交換したい人は、りんごを魚と交換したい人を数千人規模の集団から探さなければなりませんでした。

同様のことが、相次いで起こるようになり、“何か‘‘共通のものを価値あるものとして、扱うようになりました。

それは、貝殻だったり石ころだったりしたかもしれません。

こうして、貨幣が誕生します。

しかし、この貨幣を価値あるものとして信じるのは、奇妙奇天烈な現象です。

私たちも、何の疑いもなく1万円札を1万円の価値のあるものとして使用し、当たり前のように受け取る側もそれを信じている。

著者は、この貨幣というフィクションを最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだと語る。

②宗教

数千人規模の集団を維持するために、農業は重要な役割を果たすようになりました。

まず、実際に農作業する人が必要なのは当然です。

次に、収穫物を管理し、翌年の飢饉や災害に備えて余剰を備蓄する必要があり、それに伴い、それを管理する人も必要になりました。

こうした管理業務を行う人と作業する人で、ヒエラルキーが発生します。

この支配階級と労働階級を正当化するために、神話が作られていきます。

支配者階級は自らを神の代弁者であるとして、数千人規模の集団に特定の思想(キリスト教やイスラーム教など)を共有することが可能になりました。

③国家

数千人規模の集団を維持するのに、貨幣や宗教の重要性は上記で説明しました。

しかし、これらを口頭(噂話)で伝えていくのには、あまりにも人数が多すぎました。

そこで、支配者階級は、貨幣のやり取りを記録する書記体系とルール(法律)の整備を始めました。

この過程の中で、楔形文字やハンムラビ法典が誕生し、より強固な集団形成が可能になりました。

これが、「私たちと、あいつら」を分けるバウンダリー(境界線)として国家形成につながり、この国家が新たな宗教や独自の貨幣を生み出すなど相互にフィードバックしていきます。

3.科学革命

サピエンスは1500年頃まで、人口が5億人程度であったが、次の500年間で、人口は14倍の70億人、生産量は240倍、エネルギー消費量は115倍にまで増大しました。

この原因を著者は、科学革命が起こったからだと説明しています。

また、この科学革命が起こった理由を人類が自らの無知を認めることによるものだとも著者は説明しています。

上記で宗教は共同体を維持するのに重要な役割を担っていました。

しかし、もし仮に、聖書やコーランに書かれていることを信じているのなら、もう世界について学ぶべきことはないはずです。

なぜなら、世界を作ったのは神々であり、それ以上もそれ以下もないからです。

しかし、徐々に数学や物理学が世界の秘密を暴いていきます。

そして、それらは、聖書やコーランと矛盾する内容でした。

事実、その当時の世界地図は、アメリカ大陸などの記載はなく、地球が球体という認識もありませんでした。

サピエンスは自らの無知を前提に科学の力を借りて、貪欲に知識を追い求めていきます。

この科学革命を推し進めた3つのエンジンがあります。それが、科学•帝国•資本主義です。

①帝国

コロンブスの新大陸発見により植民地支配による帝国主義が始まっていきます。

帝国は植民地で奴隷貿易やプランテーションを行い莫大な利益を出しました。

その帝国主義の力となったのが科学です。

帝国は科学の力を得ることにより、効率よく土地を支配・征服することが可能になりました。

そして、帝国はさらに科学に資金を投じるようになります。

②科学

科学の力により、航路や太陽の動き方、地球の形などあらゆることが判明していきます。

帝国は新たな土地を求める為に、科学の力を推し進めていきます。

帝国は、科学の研究のために莫大な資金を費やしていきます。

これにより、科学が帝国主義を進め、帝国主義がまた、科学を推し進めるというフィードバックループに入ります。

③資本主義

科学により、人類は未来に対してより信頼をすることができるようになります。

今まで、航海に出ても生きて帰ってくる可能性が低く、資金を得るのにも冒険家は苦労しました。

しかし、科学の力で航路や陸路など、どのようなルートが安全かなどが分かるようになり、生存確率が飛躍的に上昇します。

その結果、未来に期待を持てるようになった人類は、信用(クレジット)を使うことにより、存在しないお金を生み出します。

この資本主義の体系が莫大な投資を生み出して、さらに科学の力を推し進め、その科学が信用(クレジット)を増幅させ、資本主義が加速するというフィードバックループに入ります。

■「サピエンス全史」の総括

こうして人類はかなり豊かになったが、著者は「人類は果たして幸福になったのか?」と私たちに問いかけます。

科学やテクノロジーの発達は、サイボーグ工学や遺伝子操作によって誕生したデザイナーズベイビーなどを生み出しました。

もちろん、人間の意志で動かせる義手や義足は、素晴らしい技術です。

しかし、機械との融合が進み、永遠の若さを手に入れたら、それは「人間」と呼べるのでしょうか。

私たちは、不死(イモータル)になることは出来ないが、事故以外の病気などで死ぬことはなくなる状態=非死(アモータル)になる未来は高い確率で実現可能だと著者は語っています。

幸福も同様に科学的に幸せな状態にするには、幸福物質であるセロトニン、オキシトシン、ドーパミンを出せば良いと結論付けています。

確かにこれは幸福な状態かもしれないが、これらを含んだ物質を永遠に服用して得た幸せは、本当に幸福なのでしょうか?

このように、科学がありとあらゆることを明らかにする世界で、「私たちは何を望みたいのか?」ということを明確に定義し、正しい方向に向かう必要があると著者は語ります。

地球を支配し、自然選択の法則を打ち破り、まるで神のように振る舞う我々に著者は、冒頭の言葉を残して本文を締めくくります。

-自分で何を望んでいるかもわからない、不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか?-

ユヴァル・ノア・ハラリ-

記事について

執筆者情報
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名前:けいすけ

この記事を書いた人

マグ

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Twitterフォロワー数9万人の、読書系インフルエンサー。Voicyにて書籍紹介。1%読書術(KADOKAWA)著者